新車の価格が上昇を続ける中、20代から40代の給与所得は減少傾向。そのような家計状況でも無謀にも新車を購入しようとする若者が後を立たないことに危機感を感じた筆者が警鐘をならす、「シリーズ!若い世代が新車購入時に気を付けてほしい3つのポイント」
第3回目となる今回のテーマは「メンテナンスパック」について。
ひと昔前までは、ディーラーに愛車を点検に出すには、費用はその都度、単発で支払いをしていました。
例えば法定点検費用は、クラウンなら20,000円、カリーナなら15,000円、同時にオイル交換もするなら別途5,000円が必要、と言った具合に。
ところが現在、全てのメーカーが点検費用やオイル交換費用の数回分をパックにして、その代金を先払いさせる「パック販売」を強化するようになりました。販売店の謳い文句は「点検を単発で受けるよりもパックで先払いした方が、点検一回あたりの料金が安くなりますよ」
しかしこのメンテナンスパック、2回パックから10回パックまで様々な組み合わせがありますが、料金は決して安いものではありません。そこで今回はメンテナンスパックの必要性について詳しく解説していきます。
- パックの内容はどのようになっているの?
- パックで購入した方が本当に点検料金はお得になるの?
- そもそも半年ごとに点検する必要はあるの?
メンテナンスパックはあなたの毎月の走行距離によって、購入の判断が別かれます。
今回の記事をご覧になって、愛車の使用状況が「購入しなくてもいいケース」に当てはまる方は、10万円前後も購入費用安くを抑えることができますので、是非目を通して下さい。
最後に自動車販売店がメンテナンスパックの販売を強化するようになった本当の狙いをコッソリお伝えします。
目次
メンテナンスパックの内容は?
自動車販売店が定期点検のパックの販売を強化するようになったのは今からおよそ10数年前からです。
パック内容は、半年ごとの定期点検代とオイル交換、オイルフィルターなどがセットになっており、パック回数は、メーカーにより様々。点検2回分の小パックから、5年後の車検代まで全11回分の点検代を含んだ大パックまで。
メリットは、「点検数回分をまとめて先に支払えば、その都度単体で点検を受けるより、一回あたりの料代が安くなる点」。気になるお値段ですが、これはメーカーごとに異なります。パックの数が多ければ多いほど割引率が高くなる仕組みはどこのメーカーも同じのようです。
例えばマツダの「パックdeメンテ 60ヶ月車検付コース 乗用車2」は納車の半年後から5年目の車検代までを含む全10回分がパックになって金額は157,464円。車検の費用2回分も込みでこの値段なら、一見安いように感じますがそうではありません。3年目・5年目の車検時は、車検整備の基本工賃・オイル交換・オイルフィルター代がパックに含まれているだけで、その他発生する消耗部品、重量税や自賠責保険料、検査代行費用等は別途必要なんです。なのでいざ車検当日蓋を開けてみるとプラス5万円前後の手出しが必要だったりします。
新車購入時にフルパックに加入すれば後のメンテナンス費用は一切かからないわけではありませんので気をつけて下さい。ワイパーゴムやバッテリーなどの消耗品は別に費用がかかることを覚えておきましょう。
パックの方が本当にお得なのか?
こうなると、果たして点検のパックは本当に安いのか?という疑問が生まれます。
結論から申し上げますと、全然安くないです。
マツダのパックdeメンテばかりを例に挙げて申し訳ないのですが、上記の料金表をご覧ください。デミオのレギュラーガソリン車は「乗用車2クラス」に該当します。パックに申し込むと約7万円も安くなっているので、かなり特に見えますが、そもそも定価の227,664円は設定価格そのものが高すぎると思いませんか?
「半年ごとにメーカーの車のことを知り尽くしたプロの整備士さんにメンテナンスしてもらうのだから金額は妥当だ」と言う意見も聞こえてきそうが、事実その通りで、このような考え方の人もいました。
お歳は70代前半、性別は女性、購入希望車種は軽自動車。用途は近所のスーパーに買い物に行く程度。年間の走行距離は2,000キロ。このような使用状況であれば、半年間で1,000キロしか走らないので、6ヶ月ごとの点検とオイル交換ははっきり言って過剰整備になります。しかしその女性は「プロの整備士に全てお任せしておけば安心だ」と安心に価値を感じてお金を支払うのです。彼女にとって点検のパックが高いか安いかは問題ではないのです。
しかし思い出して下さい、今回のシリーズの趣旨は何でしたか?
「新車の本体価格自体が高額化しすぎているから、削れるところは削っていかないと、オプションを全部盛りで契約すれば後々家計を苦しめて破産しちゃいますよ、特に若い独身・子育て世代は気をつけて下さいね」でしたね。
ですからここでも削れるところはどんどん削っていきましょう。しかし私は決して「国産車は品質がいいからメンテナンスなんかしなくていい、車検だけ受けとけばいいんだ」と言っているわけではありません。せっかく高いお金を払って買う新車ですから、いつまでも故障なく安心して乗り続けたい。そのためにはやはり、定期点検やオイル交換はやはり必要です。
ということで、メンテナンスパックには加入しないが、費用を抑えながら、かつ安心して乗り続けるにはどうしたらいいのか、という観点からアドバイスをします。
自分の走行距離を把握しておけば無駄な費用は抑えられる
できるだけメンテナンスにお金をかけずに、かつ愛車を長持ちさせるには、毎月の走行距離を把握することが大事です。メンテナンスの頻度は、走行距離に大きく関係するから。
メンテナンスパックは、法定一年点検以外の点検「6ヶ月点検」と「オイル交換」が含まれていますが、仮に月の走行距離が500キロ前後なら点検とオイル交換は不要です。なぜなら6ヶ月点検の整備箇所は、自分でもチェック可能な項目しか見ないから。車をリフトに上げて、下から覗き込む作業はしません。
例えば以下は日産自動車の半年点検の作業項目。灯火類が正常に点検しているか、エンジンオイル、ブレーキオイル、ウォッシャー液の量は適量であるか、など。ライトは自分で車から降りて見れば確認できますし、油量のチェックは取扱説明書を見れば確認方法が丁寧に書かれてあります。「女性でオイルの量を見るはハードルが高くないか?」と感じる方は、ガソリンスタンドに行けばタイヤの空気圧調整やオイル量のチェックくらいなら無料でやってくれます。
【日産自動車の半年点検の作業項目】
エンジン回り |
エンジンオイル | ・オイルの汚れ、量 |
---|---|---|
冷却装置 | ・冷却水の量、汚れ、濃度 ・ファンベルトのゆるみ、損傷 |
|
エンジン | ・エンジンのかかり具合、異音 ・エンジンの低速、加速の状態 |
|
電気装置 |
バッテリー | ・バッテリーターミナル部のゆるみ、腐食 ・バッテリー液の量 |
ブレーキ回り |
ブレーキペダル | ・遊び、踏みこんだときの床板とのすき間 ・ブレーキの効き具合 |
パーキングブレーキ | ・引きしろ(踏みしろ) | |
リザーバタンク | ・ブレーキ液の量 | |
ハンドル回り |
パワーステアリング装置 | ・ベルトのゆるみ、損傷 ・オイル、量 |
運転席回り | ・計器類、警告灯の作用 | |
タイヤ、足回り |
タイヤ | ・タイヤの状態(空気圧、溝の深さ、異常な摩耗) ・亀裂、損傷 |
その他 |
ワイパー | ・ワイパーの払拭状態 ・ウィンドウォッシャー噴射装置の作用 ・ウィンドウォッシャー液の量 |
ライト、ウィンカー | ・ヘッドランプ、ストップランプ、 ウィンカーランプの作用 ・ヘッドランプ、ストップランプ、 ウィンカーランプの点灯、汚れ、損傷 |
|
下回り | ・水漏れ、油漏れ、損傷 |
そもそも年間に6,000キロ程度の走行距離で、新車から3年以内なら車は急激に劣化しません。年間に6,000キロなら半年で3,000キロ、3,000キロごとに点検とオイル交換をするのは過剰整備、お金の無駄です。
反対に月に1,000から2,000キロも走行するような使い方をする人は、さすがにほったらかしでは危険。5,000キロ毎にオイル交換、オイル交換の2回に1回はオイルフィルターの交換は必要。さらには年に一度の法定点検も受けた方がより安心です。
法定点検は車をリフトアップして、下から車を覗き込むので、エンジンや足回りからオイル漏れしていないか確認ができますし、タイヤも外しますのでブレーキパッドの残量確認もできますし、タイヤのローテーションも無料でやってくれます。不具合箇所の早期発見にもつながります。
しかしこの法定点検、必ずしもディーラーで実施しなければならないことはありません。オートバックスやイエローハットなどのカー用品店や、一見お店に入りにくそうな町工場でも快く整備してくれます。金額だってお店によってはディーラーと比べても格段に安い場合だってあるのです。
このように、走行状態に合わせて適切なタイミングで適切なメンテナンスをしていけば、わざわざ10万20万円もするディーラーの点検パックを購入する必要はないのです。
私は決して「ディーラーの点検パックは高いだけのぼったくり商品だ」と言っているわけではありません。ディーラーに点検に出せば、整備士の国家資格に加えてメーカー独自の資格取得者がメンテナンスをしてくれるので、信頼できますし、安心でしょう。
しかしここでも忘れてはいけません。もう一度言います。
「最近の新車は高すぎる、給料も毎年横ばいで、購入資金に余裕がないのなら、抑えられるところは抑えよう」
点検のパックに加入するなら購入から5年が経ってから
筆者は定期点検の重要性・必要性を感じている方なので、新車から5年目までよりも、むしろ5年目以降のメンテナンスにお金をかけることを強く勧めます。なぜなら、言わずもがな車の不具合の発生確率は、年式と走行距離に比例して高くなるからです。それにも関わらず、新車購入時には15万円もする点検のパックにあっさり加入するのに、5年目以降になるとパタッと点検を受けなくなる人があまりにも多いこと!
新車の見積もり総額300万円の中で「メンテナンスパック15万円」と聞くと、そこまで高く感じませんが、車検代14万円を支払う時に、整備士から「ついでにこの先2年後の車検代まで含んだ、4回分のパックが6万円、車検代と合わせて合計20万円ですが加入しますか?」と勧められたら「高すぎる」と感じる気持ちも分からない訳ではありません。
しかし愛車を長く大事に乗り続けたいなら、新車購入時よりも5年目の車検の時くらいにパックを購入する方が費用対効果は高いです。
自動車販売店がメンテナンスパックの販売を強化する本当の理由
ある特定の自動車メーカーだけではなく、全ての自動車販売店が点検パックの販売を強化しているのには理由がいくつかあります。
販売店は新車を買ったお客と次に再会するのは9年後?
一度新車を購入すれば何年間乗り続けますか?内閣府が2018年4月9日に発表した【消費動向調査】を見ると、乗用車(新車)の買い替え年数が年々伸びていることが分かります。データ集計を始めた1992年から始まる3年では平均6.1年だったのが、最新の2018年を含む直近3年では平均8.8年まで延長。
つまり一度新車を購入すると3度目の車検、9年目まで乗り続ける人が多い。できるだけ短いスパンでお客に新車を買い替えてほしいと願う自動車販売店にとっては、嬉しい反面、頭の痛い話ですね。
ガソリンスタンドは油が売れない、それならば、とタイヤの販売に注力します。
車屋は車が売れない、それならば、と定期点検や車検などの整備費用で収益確保を狙いますが、現実は厳しいのです。苦しい家計状況の中、わざわざ費用が高いディーラーに車検を持ち込んだり、受けなくても罰則があるわけでもない法定点検を受けたりする人は年々減少傾向なんです。
そこで頭の良い人が脳みそに汗をかいた末に出来上がった商品が「メンテナンスパック」
メンテナンスパックは販売店にとって収益確保に最適
例えばあなたが新車購入時に、向こう5年先まで、半年ごとの点検とオイル交換がそれぞれ10回分がセットになったメンテナンスパックを購入したとします。金額は先払いしていますので、5年間は半年ごとにディーラーに車を持ち込んで点検とオイル交換をしてもらわないとお金がもったいないですよね。もし車を点検に出さなければ、販売店は何も作業をせずにお金を受け取ることになるのです。
自動車販売店のメリットは、半年ごとに確実に点検に入庫してもらえるので、入庫台数と収益を確保することが容易になります。また5年間は他のお店に点検を出すことはなくなるので、悪く言えば「お客を囲い込む」ことができます。このように、販売会社にとって「長期間のメンテナンスパック」の販売は収益確保と顧客の囲い込みには持ってこいの商品と言えます。
メンテナンスパックでお客ともっと仲良くなろう大作戦
思い出してください、初めて訪れる美容院や病院のことを。緊張しませんでしたか?お店はどんな雰囲気なんだろう、店内は清潔だろうか、待合コーナーは居心地がいいだろうか、担当はどんな人なんだろう。しかし1回、2回と回を重ね訪れるごとに、待合コーナーに並んでいる雑誌の種類まで分かるようになるし、担当の美容師は何も言わなくても自分の髪質のことを分かってくれるようになっている。いつの間にか最初の緊張感はどこへやら?ここまでくるともう、他のお店に行く気にはならないでしょう。
自動車販売店も同じことが言えます。新車の納車が終わると同時にお客と縁が切れることを望む営業マンはいません。お客が他のメーカーの車に興味がなくなってしまうほど、自分と自社メーカーのファンになってもらいたいのです。なぜなら顧客から信頼を得ることができれば、新しいお客さんを紹介してもらったり、次の買い換えの際に声をかけてもらえるようになるからです。
そのためには信頼関係を構築し、ショールームでも居心地よく感じてもらえるほど来店してもらわなければなりません。そのために、会社の販促部は週末に家族で楽しめるイベントを企画したり、営業マンは点検の来店を促す電話をかけたりと毎日大変な努力をします。しかしそんな努力も虚しく、いざ週末を迎えても、誰もお店には来てくれません。お客は車の調子が悪くもないのにわざわざディーラーへ行きたくないのです。
だからこそメンテナンスパックが威力を発揮します。点検の代金をまとめて先払いしているから行かなきゃ損!
「別に車の調子が悪いわけでもないけど、パックに加入したもんだから車を診てもらわないと損だし」こうしてお客は納車以来久しぶりに、ディーラーへ訪れます。駐車場へ入れば自分が乗っているメーカーの車が多数並んでいて、ショールームへ入れば最新の車が綺麗に並べられています。こうして自分が乗っているメーカー車を浴びるように見ていくと、お客は「あぁ俺の買い物はやっぱり間違いなかったんだ」と安心する。そして自分が乗っているメーカーのことをますます好きになるのです。
そして受付を済ませて、待合コーナーでコーヒーを飲んでいると、購入した時の営業マンと久しぶりに再会。商談の時は車の話しかしなかったけど、点検の待ち時間に会話をする内に、釣りやゴルフの趣味が同じだったことが判明。さらには子供のサッカースクールが同じだったりして、話はますます弾みます。「今度は一緒にラウンドまわりましょう!」なんて言ったり。このようにして、お客はメーカーや担当の営業マンに好意をもつようになります。
行き慣れた美容院を変えるのが面倒になるように、慣れ親しんだ営業マンや行き慣れた販売店を断ち切ってまで、他のメーカーの乗り換えるのが面倒になります。実際「他のメーカーの車に買い替えようと他のディーラーへ行ったが、仲良くなった担当の営業マンが頭をよぎったので、購入をストップした」という話はよくあります。
これがメンテナンスパックの威力なんです。
まとめ
- まずは毎月の走行距離を把握する
- 月の走行距離が500キロ程度なら、メンテナンスパックは不要→過剰整備
- 月の走行距離が1,000キロ以上なら、半年ごとに点検とオイル交換は必要
- だからと言ってディーラーのメンテナンスパックがベストとは言えない
- カー用品店やガソリンスタンドでも安く点検が受けられる
- 新車のうちは車は急激に劣化しない
- 同じパックを買うなら、タイミングは3〜5年経ってから
いかがでしたでしょうか?今回はメンテナンスパックの商品内容、必要性についてお話ししました。点検のパックは半年ごとにメーカー専門の整備士に愛車を点検してもらえので安心がついてきますが、これを新車の見積もりに入れると総額が10万円前後もアップします。
毎月1,000キロ以上も走行するような方はパックの購入を検討してもいいと思いますが、そこまで走らない方はハッキリ言って不要です。走行距離に関わず、ディーラーに点検や車検をこまめに出せるだけ家計に余裕があれば何も言いませんが、そこまで余裕がないのであれば「営業マンに勧められたから」「なんとなく安心だから」といった理由でパックを購入するのはお金の無駄です。
パック購入を止めて浮いたお金があれば、シリーズ1でもお伝えしたように、安全なオプションにまわすようにしましょう。お金をかける優先順位は、車のドレスアップより車の利便性、車の利便性よりも安全性、このような思考に切り替えるクセをつけましょう。