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労働時間と最大拘束時間が最多項目に
大阪労働局(田畑一雄局長)をはじめとする近畿2府4県の労働局は、長時間労働が懸念される貨物自動車運送事業(トラック運送業)を対象として9月に実施した一斉監督結果をまとめた。
142事業場のうち、119の事業場で法違反(違反率83.8%)、98事業場で改善基準違反(同69.0%)が認められた。一斉監督指導を開始した平成26年度以降で最も高い違反率となった。法違反では労働時間関係の85件(同59.9%)、改善基準では最大拘束時間の62件(同43.7%)が、それぞれ最多の項目である。今後も監督指導を継続し、重大、悪質な事案については司法処分を行うとしている。【2017.12.28 労働新聞】 |
2017年はインターネットショッピングの急増で、荷物を輸送するトラックドライバーの人手不足していることや、再配達に起因する長時間労働が「宅配クライシス」と呼ばれ、メディアに大きく取り上げられた一年でした。ヤマト運輸は荷受量の総量規制に踏み切り、同業他社も送料値上げの方針を固めました。
また大型トラックの運送業も、運送以外の積み込み作業や待機時間が拘束時間の長時間化につながるとして、政府は残業時間の上限規制を強化し、未払賃金や長時間労働に対して是正勧告を行うなど、労働時間の短縮を図っています。しかしながらネットショッピングの物流量は依然として増加傾向にありますし、大型トラックドライバーの待機問題はすぐには解消されません。このような中、労働時間の削減に向けてあらたな取組みを始める企業やSNSを利用した新しい物流サービスを提供する企業が出てきました。
ドライバーの長い待ち時間は運賃に反映されていなかった
トラックでの運送料金は単に荷物を運ぶ際に生じる費用、[人件費・燃料費・高速道路料金・車両メンテナンス費]だけでなく、その前後に荷造りや検品、待機(留置)、積み込み、取り卸しなどの様々な派生業務まで含めて決定されます。それら[運送・付帯業務・積込み・取卸し・荷待ち時間等]等全て含めて「運賃」としていました。しかしながら国土交通省が2016年12月から2017年1月にかけて行った調査によると、事業者の約3割が「車両留置料(手待ち時間料金)」は「十分には収受できていない」と回答しており「積込・取卸料」や、仕分けや検品などの「付帯業務料」、高速道路などの「通行料」も、それぞれで約2割が「十分には収受できていない」と答えています。このようにトラックドライバーは、「輸送以外の拘束時間」も長いことが問題なのですが、さらに手待ち時間や積込・取卸料が運送料金には反映されていなかったことも問題だったのです。
「運送約款」改正で長時間労働は解消されるか
運送業界にはトラック運送の運賃を契約する際のひな型として定めている「標準貨物自動車運送約款」(以下運送約款)というものがあります。これまで運送約款には「運賃、料金、燃料サーチャージ、有料道路利用料、立替金その他の費用の額」を運送状に記載するよう定めていましたが(第8条4項)、「料金」などについては具体的な記述がありませんでした。
そこで2017年11月、国土交通省は運送の対価としての「運賃」及び運送以外の役務等の対価としての「料金」を適正に収受できる環境を整備することを目的として、運送約款等について、以下のような改正を行いました。
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今回の法改正で運送業者が待ち時間料金や積込・取卸料金が適正に収受できるようになれば、運送業者は利益を確保できますし、利益が確保できればその分トラックドライバーの賃金も反映されます。また荷主は運送料をできるだけ安く抑えたいので待ち時間や積込・取卸にかかる時間を短縮する努力が求められるようになります。
待ち時間や積込・取卸にかかる時間が短縮されれば、トラックドライバーの拘束時間も短縮されます。このように運送業者と荷主の取引関係を対等にさせ、トラックドライバーの労働環境を改善させることが法改正の要点となりました。
ドライバーの長時間労働削減に向けての取組み事例
- レンゴーが過重労働解消キャンペーンのベストプラクティス企業として選出
2017年11月「過労死等防止啓発月間」として各地で様々な取組みが行われ、福井労働局では過重労働解消キャンペーンの一環として、局長によるベストプラクティス企業の訪問が実施されました。その対象企業として、レンゴー金津工場(福井県あわら市)が模範事例として選ばれ、以下の点で高い評価を得ました。
- 中継輸送(拠点倉庫)活用によるトラック運転者の拘束時間の削減
- 会社間の連絡調整によるドライバーの待ち時間の削減
- 工場での積み込み時間の削減
このような取組みの結果、ドライバーの1日の拘束時間が1時間前後も短縮できたといいます。
- LINEを利用して待機時間解消へ
トラックドライバーの待機時間を解消するためスマートフォンアプリ・LINEを使ったサービスを提供する企業も出てきました。スマートフォンアプリ開発を手掛けるブレイブテクノロジー(大阪市北区)は2017年11月「順番待ちforトラック」のアプリの提供を開始。
トラックの待機問題の原因の一つとして物流センターに到着した順番で入出庫の順番も変わることが挙げられます。先順位を取るためにセンター前に到着して車内で待機することが待機時間の増長につながっています。
このサービスは、同アプリと「友だち」になることで、対話形式で現在の順番待ちの台数が確認できることが特徴です。予約にも対応しており、ドライバーが到着予定時刻をLINEで事前に入れることも可能。
順番待ちforトラックの特徴
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積荷タイプ(温度帯)や車格を業態に合わせて設定可能
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日時指定予約にも対応し、ドライバーの時間やバースを有効的に利用できる
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プッシュ通知のメッセージ内容は自由に設定することが可能
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日々の待ち時間統計データを閲覧することができ、受付業務の改善にも活用可能
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複数の場所に同時に並ぶことはできないようになっている
ドライバーの労働時間が短縮されれば幸福度は増すか
一般家庭向けの小口配送便では宅配ボックスやコンビニの店頭で荷物を受け取るサービスの利用が伸びています。特に宅配ボックスを設置することによる再配達率を下げる効果は抜群で、通販の再配達削減効果を調査していたパナソニックは宅配ボックスの設置によって再配達率が49%から8%に低下したと発表しました。再配達率の減少にともない、配送業者の労働時間も約223時間減と発表しました。
一方大型トラックのドライバーも政府の働き方改革の推進により、時間外労働が厳しく規制されるようになりました。中小零細の運送業者の一部でも、残業時間が月に100時間を超えると政府から是正勧告を受け、大幅な労働時間の短縮につながっているケースもあります。
トラックドライバーにとっては労働時間が短くなれば、その分休息したり余暇を楽しんだりできる時間が増えるので嬉しいことです。一方で労働時間が短縮されると収入減に直結するので、素直に喜べないドライバーも多くいることも事実です。行政指導や時代の流れで残業をしたくてもできない、そう不満を漏らすドライバーは時間外労働にそこまで厳しくない会社への転職を考えます。彼等にとっては労働時間を削減し上限を守ろうと努力している会社はブラック企業で、上限を設けず働かせてくれ残業代を支給してくれる会社がホワイト企業なのです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?今回はトラックドライバーの長時間労働についてお伝えしてきました。昨年佐川急便が週休3日制度を始めたことが話題になりましたが、制度の内容を見ていると休日が1日増えた分、他の日の1日の労働時間が増しており実質の週の所定労働時間には変化はありません。〈残業が少ない・休日が多いが賃金が安い〉⇔〈残業が多い・休日が少ないが賃金が高い〉どちらがいいのかは人によって様々でしょう。しかし長時間労働が続けばいつかは身体を壊します。今後も約款や法改正でトラックドライバーの慢性的な長時間労働が改善されてくことを願います。